大神回天基地

九三式酸素魚雷


bar2.png

 九三式酸素魚雷は、艦隊決戦型の駆逐艦、巡洋艦用に採用された超大型魚雷で、直径61センチ、
 重量2.8トン、炸薬量780キログラム、時速約90キロメートルで疾走する無航跡魚雷です。
 1933年に制式採用され、「九三式」という名称は皇紀2593年の末尾2桁数字によります。
 酸素魚雷を発射するための発射管は「九二式発射管」を使用していました。

 ここに記載している記事は研究途中のものを含むため間違いがあるかもしれません。

九三式酸素魚雷機関部分
(大神回天神社に奉納された九三式酸素魚雷機関部分)



 @酸素魚雷の開発
 A九三式酸素魚雷の特徴と問題点
 B九三式酸素魚雷の各型
 C各魚雷の仕様

@酸素魚雷の開発

  
 魚雷に使用する酸化剤を、純粋に酸素のみとすることで利点が多くなることは世界各国でも広く知られていましたが、酸素の反応性の高さから、燃焼開始時などに容易に爆発するという技術上の問題点が立ち塞がっていました。
 各国は酸素魚雷の開発に力を入れていたものの、頻発する爆発事故で中止の止む無きに至っていました。酸素魚雷の一番危険な時は着火の瞬間でした。

 日本では呉海軍工廠魚雷実験部大八木静雄技術大尉の指揮のもと、開発を進めていました。この問題を試行錯誤の末、着火時は普通の圧縮空気を使い、徐々に酸素濃度を上げるという手法で解決したのです。
 イギリスも開発に成功していましたが、1933年(昭和8年)、日本は酸素魚雷の開発に成功しました。イギリスは酸素魚雷に起因する事故が起こり、全ての酸素魚雷を廃棄したため、大戦を通じて唯一の酸素魚雷運用国となりました。
 日本海軍は機密保持のために酸素を使用していることを言わずに「第二空気」「二空」と呼んでいたのです。
 九三式魚雷を装備する軍艦はこの型の魚雷を使うために空気圧縮ポンプ・酸素発生器・酸素圧縮ポンプを装備する必要がありました。

A九三式酸素魚雷の特徴と問題点

  
 ※九三式酸素魚雷の特徴
 ・無航跡魚雷
 酸素魚雷は圧縮空気でなく酸素を燃料と混合して燃焼させ、炭酸ガスを排気します。
 炭酸ガスは海水に良く溶けるため、ほぼ無航跡とすることができました。
 他国の魚雷もしくは九三式より前の魚雷は「空気」を使用していました。
 燃焼時には炭酸ガスの他に水には溶けない「窒素」も発生させたので航跡が残っていました。

 ・高速推進・航続距離
 高純度酸素とケロシン(灯油)の燃焼ガスにより、従来より強力なエンジン出力を得ることができ、
 既存の魚雷と比較して航続距離・雷速共に優れていました。
 米軍はこれをロング・ランス(長槍)と呼んで警戒していました。

 ・大きな打撃破壊力
 強力なエンジン出力によって、より多くの炸薬の搭載量も増やせることができました。


 ※九三式酸素魚雷の問題点
 ・整備の難しさ
 酸素魚雷は筒内に脂分が残っていると爆発するため、バルブと空気配管から油分を完全に除去等の充分なメンテナンスを必要としていました。
 そのため専用の「魚雷調整班」と呼ばれる整備班がいました。

 ・信管
 速すぎる雷速の為、船底爆破用の磁気式の信管が使用できず、接触式信管しか利用できませんでした。

 ・遠距離攻撃による命中率の低下
 10,000m以上も離れた所から魚雷発射を多用していましたが、高速で移動している艦艇には命中率は当然下がります。
 日本軍が戦った各海戦において10,000m以上からの魚雷発射はほとんど行われなくなり、九三式魚雷は射程を減らして炸薬量を増やした三型が徐々に主流となりました。

 ・ジャイロスコープの不調
 縦舵機用ジャイロスコープは自動操舵して魚雷の進行方向を目標方向に制御するのと、設定深度を一定にするために必要不可欠なものです。
 九三式魚雷一型では「九二式縦舵機」が使用され、九三式魚雷三型には「九八式縦舵機改一」を使用し、ジャイロ部分を圧縮空気で動かしていました。

98giro31.jpg98giro61_1.jpg
(九八式縦舵機改一)

 回転数は毎分8000でしたが、改良を加えた九八式縦舵機でも、衝撃が加わると容易に設定方位がずれることが後に判明しました。
 この欠点はかなり後まで改良されることはなく、回天の開発に際して初めて毎分20,000回転電動ジャイロスコープに変更されたのです。

 後に日独技術交換により大日本帝国海軍からドイツ海軍へも試験供与されましたが、戦略的位置付けの違いや、整備性の悪さなどからUボートでの使用には適さないと判断され、採用されていません。

B九三式酸素魚雷の各型

  
 九三式酸素魚雷は一型、一型改一・改二・改三、二型、三型が存在していました。

 ◎九三式酸素魚雷一型
 この魚雷は実験用で1933年(昭和8年)に完成しました。1928年(昭和3年)から始まった酸素研究の大きな成果でした。
 これはあくまでも実験用の魚雷として位置付けられており、燃焼識別試験、馬力測定試験を実施し、このモデル上で九三式酸素魚雷の基礎部分は作られました。
 九三式酸素魚雷一型にはこれまでなかったいくつかの新しいアイデアを組み入れ、魚雷の開発成功の主要な要因となりました。

 1. エンジン起動時の爆燃抑制に空気を使用。
 2. 希釈剤としての海水の使用。
 3. 海水ポンプからの送水を滑らかにする「緩衝器」の新デザインを採用。
 4. 新しいデザインの燃焼器を採用。
 5. 縦舵機および縦舵機装備の改良。

 ◎九三式酸素魚雷一型改一(1938−1945)
 実験用の一型をベースとして、改良を施し艦船で実用化するために1935年に設計されました。
 しかし、次の変更点以外はほとんど同一でした。

 1. 前部船体および後部浮力室中の肋骨の強度を強化。
 2. クラッキング(熱分解)を防ぐためにピストンロッドへの冷却水の増加。
 3. リン青銅で作られていた滑り弁にはギヤリング用のヘリカル歯車を使用。
   また、鋼、ブロンズおよび「シルジン青銅」は一型の中で使用。

 ・ヘリカルギヤ
  円筒に歯を斜めにねじ状に切った歯車。平行な二軸間での回転運動を伝えるのに用いられます。

 ・シルジン青銅
  4〜5%のケイ素を含む銅‐ケイ素‐亜鉛合金で鋳物として船舶用部品などに使われています。
  銅合金鋳物は主として青銅鋳物が鋳造されていましたが、銅鋳物の耐食性・耐海水性に
  優れることに注目し艦船への用途、特に推進器用として用いられるようになりました。

 ◎九三式酸素魚雷一型改二(1938−1945)
 基本的なベースは一型改一と同じですが、多くの詳細において異なります。
 1936年と1944年の間に多量に生産されました。

 1. 酸素容器の生産促進のための改良
 2. 肋骨あるいは後部浮力部屋の強度をさらに強化。
 3. 「発停主機起動弁」上のギヤ比の変更。
 4. エンジンの滑り弁を新しいバルブと交換。
   改二およびその後の酸素魚雷のバルブは全て新しいバルブを採用。
 5. 滑り弁への冷却水は緩衝器のオーバーフローからの水で増加。
 6. 潤滑油を送るための構造の改良。

 発動や実行と装薬は一型改一と同じです。

 ◎九三式酸素魚雷一型改三(1945)(実戦には間に合わず)
 この魚雷は1944年に設計されました。
 実戦で使用されませんでしたが、試走は終わっていました。

 九三式酸素魚雷三型と同じ破壊力を有し、より長い航続距離の確保という海軍側の要求を満たすために開発されました。
 一型の酸素容器を採用し、九三式酸素魚雷三型の改善された弾頭システムを組み合わせました。
 起動時には空気の代わりに四塩化炭素を採用しています。

 ◎九三式酸素魚雷二型
 駆逐艦搭載のためにより速い速度の魚雷をという海軍側の要求を満たすために1935年に設計された実験用魚雷でした。
 「試製F」が成瀬正二造兵中佐により開発を始めたあと、呉海軍工廠魚雷実験部での本格的な実験を推進すると、二型の実験は中止されました。
 しかし、「試製F」は開戦と同時に研究が中止になると、二型の実験を再開しました。
 その後の詳細は不明です。

 ・一型より厚いシリンダ壁や強いピストンロッドに改良し、より高圧力に耐えるエンジンを装備。
 ・小さなピッチあるいはプロペラ(一型より少ない約20%)を採用し高いRPMを確保。
 ・航続距離5000mの時に速度56ノットの達成。

 ◎九三式酸素魚雷三型(1944−1945)
 1943年に設計されました。
 推進システムの改良により、一型より小さな酸素容器および大きな弾頭が取り付けられました。
 要点は次のとおりでした。

 1. 空気室(「第1の空気室」)から四塩化炭素の小ビン(150cc)の「第1の液体のボトル」に交換。
  起動時には酸素と四塩化炭素および燃料の混合物で発動。
 2. 酸素容器の長さを縮小(航続距離の短縮)。
 3. 弾頭の長さを増加。

九三式魚雷三型全体図・要目表
九三式魚雷三型全体図・要目表
M・U詳細メモを許諾を得て管理者が清書したもの・転載禁止
防衛省防衛研究所所蔵「各式魚雷全体図 93式3型」より


 四塩化炭素を使った発動方式を「第一液発動方式」と呼び、一型よりもより確実に発動できるようになりました。また取扱や調整方法も容易になったとあります。
 詳細はわかりませんが、一型には何らかの(冷走か?)問題点があったことがわかります。
 また排水量や釣量の記載も見られます。


C各魚雷の仕様

 九三式酸素魚雷一型改一及び改二(巡洋艦・駆逐艦用)
 全長:900cm
 頭部:140cm 第二空気畜器:344.8cm(容量980L 圧力225kg/cm2)
 燃料室:49.6cm(128L) 潤滑油:67L
 第一空気:容量13.5L 圧力22.5kg/cm2
 操空気畜器:容量40.5L 圧力225kg/cm2
 燃焼時の温度:660℃  直径:61 cm
 重量:2,700 kg
 射程:36kt で 40,000m、40kt で 32,000m、49kt で 20,000 m
 深度;6m
 深度器:2m〜16m設定可能
 弾頭重量:490 kg 九七式爆薬 爆発尖:戦前は九〇式、戦時中は二式)
 生産数:1150
 生産拠点:呉・佐世保

 九三式酸素魚雷三型(駆逐艦用、炸薬量を 780 kg に増加したタイプ)
 全長 : 900 cm
 頭部:227.5cm 第二空気畜器:259.5cm(容量750L 圧力200kg/cm2)
 燃料室:38.3cm(95L) 潤滑油:67L
 四塩化炭素:容量150t
 操空気畜器:容量40.5L 圧力225kg/cm2
 燃焼時の温度:660℃
 直径:61 cm
 重量:2,800 kg
 射程:36 kt で 30,000 m、40 kt で 25,000 m、48 kt で 15,000 m
 深度:6m
 深度器:2m〜16m設定可能
 弾頭重量:780 kg 九七式爆薬 爆発尖:戦前は九〇式、戦時中は二式)
 生産数:560(内200は艦艇で使用。他は回天一型に改造された)
 生産拠点:呉・佐世保

(参考)九〇式空気式魚雷(艦艇用 睦月型駆逐艦から初春型駆逐艦までの駆逐艦以下の艦艇に搭載)
 全長:850 cm
 直径:61 cm
 重量:2,500 kg
 射程:43 kt で 10,000 m、40 kt で 10,000 m、46 kt で 7,000 m
 弾頭重量 : 400 kg

(参考)Mk.15魚雷(艦艇用 太平洋戦争におけるアメリカの主力魚雷)
 全長:288 in (731.52cm)
 直径:21 in (53.34cm)
 重量:2841 lb (1289kg)
 射程:33.5 kt で 9,100m、45 kt で 4,500m
 弾頭重量:375 kg



home.png contents.png back.png pagetop.png
inserted by FC2 system